顎関節症の分類

MRI(磁気共鳴画像)などの顎関節の画像診断法が進歩したことにより、

顎関節症とひと口にいっても、さまざまなタイプがあることがわかってきました。

一般社団法人日本顎関節学会の分類では、4つの病態に分類されています。

顎関節症患者は、これらの病態のどれか1つだけに罹っていることもありますが、

通常は複数の病態に罹っています。

 

顎関節症の病態分類(2013)

病態1:咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)

病態2:顎関節痛障害(Ⅱ型)

病態3:顎関節円板障害(Ⅲ型)/復位性・非復位性

病態4:変形性顎関節症(Ⅳ型)

 

 

病態1:咀嚼筋痛障害

咬筋や側頭筋を代表とする咀嚼筋が障害され、痛みが出てきている病態です。

したがって、咬筋や側頭筋などの咀嚼筋を指でていねいに触っていくと、痛み(ないし違和感)を覚える場所が見つかります。

咀嚼筋痛障害があると、食事などでアゴを使うとアゴに痛みを覚えたり、

だるくなって食事がしづらくなったりします。

痛みが強いと、痛みのために口を開けづらくなったりもします。

この病態は、"顎関節症Ⅰ型"とも呼ばれます。

 

病態2:顎関節痛障害

顎関節が障害され、痛みが出てきている病態です。

何らかの原因で顎関節の中の滑膜組織や円板後部組織などに炎症が生じて痛みが出ます。

耳の前の顎関節部を指で押さえると、痛みを感じることがよくあります。

また、大きく口を開けたり、硬いものを噛んだり、口を左右に振ったりして顎関節に力が加わると痛みを感じます。

咀嚼筋痛障害にも同時に罹っていることが少なくありません。

痛みが強いと、口を楽に開けられる量が大幅に減って、食事にも支障が出ます。

この病態は、"顎関節症Ⅱ型"とも呼ばれます。

 

病態3-1:顎関節円板障害(復位性)

口を開けていくと途中で「カクッ」や「コクッ」といった音がします。

この音を"クリック"といいます。

すでに説明したように、口を開けていくと下顎頭は回転しながら関節隆起を滑り降りてきますが、

途中でずれた関節円板に接触し、さらに前方への移動を続けると、

ある瞬間に関節円板の後ろの分厚い部分を乗り越えて中央の薄い部分に滑り込むときにクリックが生じます。

これにより、下顎頭と関節円板の位置関係は正常に戻るものの、口を閉じていくと、

普段のかみ合わせの位置にアゴが戻る直前に、また鈍いクリックを生じて関節円板は再びずれてしまいます。

このように、口を開けるときに一度、口を閉じるときに一度クリックが生じるので、

これを"相反性クリック"と呼びます。

ただし、口を閉じるときに生じるクリック音が小さく、音にならないことも多くあります。

また、口を開けるときや閉じるときのクリックはガクッと大きなアゴの振動をともなって生じることがあり、

これを「アゴがはずれた」と勘違いする人がいますが、そうではありません。

円板転位が復位性である間は、その半数以上は痛みがありませんが、

クリックがまさに生じようとする(下顎頭がずれた関節円板の肥厚部を乗り越えようとする)瞬時に痛みを覚える患者さんもいます。

 

病態3-2:顎間接円板障害(非復位性)

顎関節円板障害(復位性)の半数以上は、ずれた関節円板が正常に戻るわけでも、

進行するわけでもなく、そのままの状態がずっと続きますが、

何割かは顎関節円板障害(非復位性)の状態に進行してしまいます。

すなわち、ある日突然に、口を開けても下顎頭がずれた関節円板の中央の薄い部分に滑り込むことができなくなり、

下顎頭が最後まで関節隆起を滑り降りることができなくなります。

このようになると、どのようにアゴを動かしても関節円板は前方へずれたままとなり、

下顎頭の動きが制限されるため大きく口を開けられなくなります。

このような状態を"クローズドロック"と呼びます。

それとともに、多くの場合、顎関節痛障害を併発し、無理に口を開けると顎関節付近に強い痛みを覚えるようになります。

 

病態4:変形性顎関節症

顎関節の解剖のところで述べたように、下顎頭はこぶしを握ったようなだ円球状をしていますが、

それが変形してくることがあります。

変形は若い人にも見られるのですが、年を取る(加齢)とともに多く見られるようになるので、加齢は変形性顎関節症の原因の1つです。

もっとも多い原因は関節円板転位で、とくに顎関節円板障害(非復位性)になると、

変形のリスクが高くなることが知られています。

これらの研究では、267の変形が認められた顎関節のうち、実に90.3%が顎関節円板障害(非復位性)を併発していました。

クッションの役目をしていた関節円板がずれてしまうと、下顎頭、下顎窩、関節隆起を覆っている線維性の軟骨組織の力の負担が増し、やがて軟骨の変性や破壊が生じ、

さらに軟骨の下の骨が吸収され始め、それとともにその周囲には骨の添加が生じて全体として顎関節が変形していきます。

もっとも変形が目立つのは、下顎頭です。

進行すると、関節円板や円板後部組織に穴が開いたり(穿孔と呼ばれる)、

ひどい場合には関節円板と円板後退部組織が完全にちぎれたり(断裂と呼ばれる)してしまうこともあります。

変形性顎関節症は関節円板障害、とくに関節円板障害(非復位性)を併発している場合がほとんどで、臨床症状は基本的に関節円板障害と違いはありません。

唯一、特徴的な症状として口を開け閉めした時に出る「ジャリジャリ」、「ギシギシ」といったこすれるような音があります。

この音は、クレピテーション(クレピタス)と呼ばれます。

しかしながら、変形性顎関節症であっても、このクレピテーションは出ないことも多くあることに注意してください。

変形性顎関節症の診断には、画像検査を行います。

とくに顎関節断層エックス線撮影法やCTが適しています。

変形性顎関節症と診断を下す異常画像には、

  1. 下顎頭内にのう胞様の像が見えるもの(subchondral cyst)
  2. 骨皮質の連続性がなく粗造に、あるいは断裂しているように見えるもの(erosion)
  3. 下顎頭内が一様に硬化しているように見えるもの(generalized sclerosis)
  4. 下顎頭の辺縁部に骨の添加がみられるもの(osteophyte、骨棘ともいう)
  5. 下顎頭がこん棒状に見えるもの(atrophic deformity)

があります。これらのうち、1つ以上のものが該当すれば、変形性顎関節症と確定診断します。

一方、下顎頭が平らになっていたり(扁平化、flattening)、一部が陥没していたり(concavity)、

下顎頭の骨皮質がぶ厚くなっていたり(cortical sclerosis)しているものは病的な変形ではなく、正常のバリエーション(normal variation)の1つと判断し、変形性顎関節症とは診断しません。