プラークアッという間にできる。
むし歯の始まりの一番の原因となるのは、ツルハシを持った細菌ではありません。細菌が食べ物を分解したときにできる酸が、その正体です。
プラークの中のむし歯菌がつくる酸は信じられないぐらい強力で、水晶ほどの硬さを持つエナメル質を簡単に溶かします。しかもその生産がとても早いのです。水晶ほど硬くても、溶けやすいCaを主成分としているのがエナメル質です。
ひどいむし歯の人なら、甘いお菓子を食べているその最中に、もう歯痛がはじまったという感覚を持った経験があるはずです。プラークの形成は秒単位です。糖分が口に入って何十秒後にはプラークができて、もう酸をつくりはじめます。
「むし歯は夜できるから、寝る前に歯磨きすればいい」
とタカをくくってはいけません。食べ終わった瞬間から、いやいや、食べているその間にも歯の大敵であるプラークはできつつあるのです。
皆さんご存じでしょうが、むし歯菌の大好物は砂糖です。実際、砂糖の消費量とむし歯の発生率はおもしろいぐらい一致します。砂糖が不足した第二次世界大戦中・戦後には、驚くほどむし歯が激減しました。その後、食糧事情が改善し、砂糖の消費量が伸びるとともにむし歯のほうもすごい勢いで増えてきたのです。その後、欧米では、にもかかわらず虫歯の減少に成功しました。その理由も下記に述べさせてもらいます。
むし歯をつくる3つの要因
毎日、多くの患者さんを診察していると、ときどきふと思います。
「人間って平等ではないな」
熱心に歯磨きを励行していても、いつの間にか1本2本とむし歯に冒され、若くして差し歯やブリッジにしなければならない人がいます。一方には、ロクに歯磨きもしていないらしいのに、4,50歳で驚くほどきれいな歯の持ち主がいるのです。
むし歯には三つの要因があるといわれています。
歯の質
食べ物(糖)
細菌
虫歯の3つの輪を見かけられたことがあるかもしれません。カイスの輪と呼ばれるものです。この3つの原因の関わりについて述べたいと思います。
まずは、歯の質について
患者さんの歯を見ながら不平等だなと感じてしまうのは、遺伝や栄養によって歯の質が一人ひとり、みんな異なっているからです。歯の質が良いか悪いかで、虫歯になりやすいかどうかが決まります。
歯の質がいいか悪いかは、遺伝的要素よりも、とりわけ大切なのが、赤ちゃんのときの栄養状態です。「大人になれば永久歯にかわるから、そんなに気にしなくても」と思うのは間違っています。
意外かもしれませんが、永久歯の芽は、赤ちゃんのときにつくられます。妊娠3か月から生後9か月の間にほとんどの永久歯はもうそ芽ができあがっているのです。大人の歯は、胎内にいるときから準備されているわけです。
ですから将来、その子がむし歯に悩まされるかどうかは、妊娠中のお母さんの栄養状態によっても大きく左右されます。
妊娠がわかったら、カルシウムの摂取を心がけてください。お母さん自身の歯や骨を守るためにも普段の2倍は必要でしょう。丈夫な歯づくりには、カルシウムのほかにも良質なタンパク質やリン、ビタミンA、ビタミンDが欠かせません。
次は、食べ物について
歯の栄養面でも砂糖は危険です。糖のとりすぎは血液を酸性化し、それを中和するのに大量のカルシウムが消費されるので、歯や骨をもろくするといわれています。こどもの歯だけをいっているのではありません。残っている歯はもちろん、入れ歯を支える歯槽骨の健康のためにも大切なことなのです。
4つの段階で進むむし歯
むし歯がどう進行するかは、ほとんどの人が体験的にご存知のはずです。
むし歯菌がつくる酸は、まず表面のエナメル質を溶かし、エナメル質に穴があくと、そこから入り込んで象牙質の奥まで蝕んでいきます。痛みだすことにはもうかなり進んでいて、治療も難しくなっています。
①第一段階:歯の表面が白く濁ってきます。エナメル質が酸に溶かされているしるしで、その部分を削り、プラスチックや金属を詰める簡単な治療ですみます。
②第二段階;エナメル質に穴が開いてしまうと、その下にある象牙質が破壊されます。冷たさが歯にしみだすのが、だいたいこの段階。そこを削って詰め物をしますが、治療に痛みが伴うようになります。
③第三段階:激しい歯痛を感じるというのは、象牙質の奥にある神経にも破壊の魔の手が迫ったときです。この段階までくると、神経のある歯髄を抜いたうえで根管を閉鎖し、クラウンをかぶせるなどの処置を行わなければなりません。
④第四段階:歯冠がほとんどなくなり、歯根だけが残ったむし歯の末期。ついに歯を抜くことになります。神経がすっかり腐って痛みもないと、放っておく人が多いのですが、それが原因で敗血症やリウマチなどの病気が起きてくることもあるのです。
歯の丈夫な子は一生で4千万円のトクをする
どんな病気もそうてしょうが、むし歯も早く発見し、早く治療するほうがラクなのです。ひどくなるほど治療に伴う苦痛が大きくなります。
いまは治療技術も進歩していますから、治療の苦痛は小さくなりましたが、それでも神経を抜いたり、歯を抜くのは肉体的精神的につらいことです。ですから歯が悪くなるほど歯医者へ行くのがますます嫌になり、その結果、むし歯をどんどん悪化させてしまう悪循環に陥ります。
治療費のほうもむろん、むし歯が進行するほど大きくなります。「歯の治療は高い」といわれますが、いまの保険制度では、確かにそのことを否定できません。歯の悪い子とくらべると、歯の丈夫な子は一生のあいだにかかる歯の治療費で、4千万円もトクをするという試算があるくらいです。
早い段階で治せば、治療費もグッと安あがりです。治療費を高くしているのは、悪い歯を放っておく患者さん自身である、といったらいいすぎでしょうか。早期発見と早期治療は、経済面でも患者さんをラクにするのです。
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