お知らせ

食べる力の発達とは

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子どもの食べる力の発達は、どういった経過をたどるのでしょう。

胎児期

赤ちゃんが食べる力(摂食機能)を発達させていくのは、お母さんのおなかの中にいるときから始まっています。おなかの中にいる、つまり胎児期には、おっぱいが飲めるように準備しています。それは、生まれてお母さんのおなかから出てすぐにおっぱいを飲むためです。

受精して受精卵の細胞分裂が起こり胎生8週くらいで羊水中で上唇になにかが触れると、その刺激に反応して首や上体を動かしたりします。胎生12週ころになると、口を閉じたり、羊水を嚥下(飲み込むこと)したり、胎生22週では口をすぼめたりします。28週以降になると、自分の口に入れて吸啜(強く吸うこと)と嚥下を練習するようになります。

こうして赤ちゃんは、生まれてすぐにおっぱいを吸うことができるよう準備をして生まれてきます。

 

哺乳と摂食の違い

哺乳動作と摂食動作はどこが違うのでしょうか。哺乳動作はいま言ったようにお乳を飲む動作で、摂食動作は形あるものを食べる動作です。

大人は目で見て意思をもってそれを食べようとしますが、赤ちゃんにはそれがどんな食べものなのか、おっぱいがなにかということもわかりません。でも、ほっぺをチョンチョンとつつくと、つつかれたほうを向くように反射運動が起こります。お腹がすいたからおっぱいを飲もうとするわけではなくて、反射的な行為です。しかも赤ちゃんの気道の入口はお乳を飲み込むときには高い位置にあるので、お乳は気道に流れこむことなく食道に流れていきますから、鼻呼吸をしながら乳首をくわえてずーっと飲み続けることができます。赤ちゃん時期を脱した私たちは、口の中でいったん水を一つにまとめてから、息をとめてゴクッと飲みます。鼻で呼吸をしながら同時に水を飲み続けることはできません。

赤ちゃんは唇と舌と顎が一緒にしか動きません(一体動作)。でも、赤ちゃん期を脱して成長すると、食べものが口に入ると唇を閉じ、舌は食べものが奥歯にのるように動き、顎は食べものをすりつぶすために回旋運動をします。これを「分離動作」といいます。「一体動作」はおっぱいからじょうずにお乳を飲むのに適していますが、食べものを噛んでたべることはできません。

食べるための準備活動

でも、おっぱいしか飲めないこの時期から、食べるための準備がおこなわれます。それは、「指しゃぶり」「おもちゃなめ」などです。指やおもちゃを舌でさわったり、舌が押されて動いたりします。このように、いろいろなものが口にさわったり、入ることによって、慣れが生じて反射が消えていきます。

ママの指で唇をさわってあげたり、冷たいおしぼりや温かいおしぼりで拭いてあげたりすることで、温度の違いも覚えていきます。おっぱいはいつも同じ温度ですが、食べものはいろいろな温度のものがありますから、この感覚の広がりも大事です。

歯固めおもちゃにはいろいろな形のものや材質(布・木など)などがありますから、それらを口で触れたりして遊ぶとよいのです。ときには白湯をあげたり、味噌汁の上澄みを少しスプーンですくってあげることも味覚を広げるのに、とてもいいことなのだと思います。

いずれくる離乳期に向かって、いろいろなものを口に入れてみることで口の過激さがなくなって、スプーンや食べものを入れる準備をしていきます。どんな赤ちゃんに対しても、清潔さには気をつけなければなりませんが、障害がある子に対しても”口で遊んでいいんだよ”ということをママに教えてあげてほしいと思います。

 

新生児期から乳児期前半期

 

吸啜用の口の形

おっぱいだけで生きている哺乳期の赤ちゃんは、お乳を飲みやすい形態の口腔をもっています。赤ちゃんは口の容積がまだ小さいので、顔全体のバランスも、目の上と下が1対1ぐらいの比率に見えます。成長するにしたがって、口腔が大きく育ってくるので、目から下が大きくなり、比率も1対1ではなくなります。

口の容積が小さいこと、それがお乳を飲みやすい形態なのです。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中は舌でいっぱいになっていて空洞といえるほどの空間がありません。左右のほっぺたには脂肪床のふくらみがあります。上顎には吸啜窩(吸うくぼみ)があります。乳首には、舌と上顎の間で安定させられ、左右のふくらみで密着し、口の中に陰圧がつくられます。その状態で舌が前後・上下に乳首をしごくように運動します。少ない動きであっても、効率よくお乳を吸うことができます。これがお乳を飲みやすい口の形です。

離乳食初期

離乳食をいつから始めるかは、個人差があるものです。5ヶ月以降であることは確かですが、6ヶ月からになる子も7ヶ月になる子もいます。おすわりが安定していること、スプーンになれていることなどが条件になります。

「成人嚥下」を学ぶ

離乳初期食というのは、タラタラから始まって次第にダラダラ、そしてドロドロと、とろみが濃くなっていきます。

一番の目標は「成人嚥下」ができるようになることです。サラサラの乳汁ではなく、少し圧をかけて、くっと飲む練習です。

唇を閉じたらまっすぐ引き抜く

最初はスプーンで入れてあげても、唇はなかなか閉じません。ですからはじめは口の中に流しこむしかありませんが、だんだんねれてくると舌の上にスプーンのお尻がのったら、それを感じて唇を閉じるようになります。まだゆるい閉じ方ですが、スプーンはまっすぐに引いて抜きます。そうすると食べものが舌の前方にのります。徐々に水分を減らして、タラタラからドロドロにしていきます。このときの舌の運動は、まだ前後運動で、入ってきた食べものを前方から後方へ送って飲みこみます。

離乳食中期

 

中期食はていねいにすすめる

離乳食中期は、一番注意しなければなりません。中期食で失敗すると、「噛まない」や「丸飲み」といった問題が起こりやすいのです。中期食は、ていねいに、大事にすすめていただきたいと思います。

まとまった形にして口にいれてあげる

中期食は、濾したものでも、いったんまとめて形をつくって与えます。口の中に入ると形があるので、それを舌と上顎の間にはさむことによって食べものを感じて、舌の上下運動によって押しつぶそうとします。食べものを押しつぶすことで、すぐにほぐれるものもあれば、つぶつぶがあるなど、その食材の性質を感じとります。つまり舌と上顎はセンサーの役割をしています。

こうしたことができるのは、口の中が広くなって、舌を上下に動かすことができるようになったからです。

中舌から前舌にのせてあげる

この時期に、食べものをべーっと出すからといって奥のほうに入れると、「飲みこみ上手」になるだけです。ちょっと硬いなと思うものが入ると、べーっと押し出してきます。それは賢い反応なのです。自分の能力ではかなわないから出すのです。ですから、出せるような位置、中舌から前舌にのせてあげることが大切です。

また、大人の働きかけとしては、舌で押しつぶせるやわららかさで1センチ角くらいの形あるものを与えていくことや、食べものが舌の前方にのるように、スプーンの食べものを上唇でこそげとることができるように食べさせることが必要です。

食べさせる前にやわらかさのチェックを

たとえば、にんじんが消化されずにウンチに混じっているという話を聞くことがあります。硬さは大丈夫でしょうか。そのようなときには、食べさせる前に、大人が試食してやわらかさをチェックしてみましょう。赤ちゃんになったつもりで、にんじんのかたまりを口に入れてみて、舌で上顎に優しく押しつけてつぶしてみてください。あるいは指ではさんで、力を強く入れなくても軽く押しつぶせるやわらかさなら大丈夫です。

だいこんと同様、にんじんも夏と冬ではやわらかさが違いますし、味つけの塩や砂糖の入れ方でもやわらかさに違いが出ます。見た目だけではわかりませんから、ぜひ試食してみてください。

コップやスプーンの大きさは?

この時期に、子どもの口に合わない大きいコップやスプーンを使うのはよくありません。幼児期の大きいスプーンで離乳食を山盛りにして口に入れる人がいます。たくさんの量がいっぺんに口いっぱいに入れられると処理ができないので、そのまま飲みこもうとします。これでは、噛むという行為につながりません。

 

1歳前後

1歳前後になると、前歯が上下とも4本ずつはえそろい、1歳前半に第一乳臼歯が出てくると奥歯で噛み合わされるようになってきます。口腔の容積も広がり、下顎の側方への動きもよくなって噛みやすくなります。しかし、まだ硬いものをしっかり噛んだり舌で唾液と混ぜて食塊をつくるのはじょうずではありません。

手づかみ食べの重要性

離乳完了のころになると、子どもは自分でも食べるようになります。自分で食べることで、自分で適当なひと口量がわかる、口にじょうずに運べるということも発達します。離乳中期ごろから手づかみ食べが始まりますが、はじめは、手につかんで食べものを手当たりしだいに口に押しこむので、こぼれるほうが多かったり、大きなものを口に押しこんで目を白黒させたりします。やがて、1歳半ごろには食べものを口入れやすい手のつかみ方、量の加減ができるようになります。

ただ、手の感触に過激な子もいて、手づかみを嫌がる子もいます。そういう子には、乾いたもの、たとえばビスケットなら持って食べるというのであれば、それでいいのです。

手づかみの魅力は、大きなものは前歯で噛み切って舌の前のほうに自分でのせることができることです。1歳代をこえても、手づかみ食べは、手でさわることで食物の性質を知り、量の加減や口への運び方を学ぶために大切です。大きくなってもパンやおにぎり、さつまいも(焼きいも)などは手で食べるわけですから、手づかみ食べは整合性のあることだと思っています。

スプーンが使えない子にはフォークを

まだスプーンやフォークなどの道具が使えない子どもも、手づかみならじょうずに口に運べます。つまり道具を使えるようになる前段として、手づかみ食べは重要です。もちろん道具も使いはじめる時期ですから、手と道具の併用の時期ととらえてください。

なかにはスプーンでうまくすくえない、口までこぼさず運べない子もいます。そういう子には、固形のものを食べるときには、フォークをすすめています。スプーンではせっかくすくえた食物が落ちてしまいますが、フォークなら落ちないからです。順序はどちらでもいいのです。やがて、スプーンやフォークがじょうずに持て口が迎えにいかなくても安定して口にじょうずに運べるようになります。

口いっぱい押しこむタイプの子もいます。食欲旺盛ま子どもや、認知が弱く量の調整がうまくできない子どもがいます。それを調整するには、大人の手助けがいります。