食の場面で獲得するコミュニケーションの力です
「食べながらおしゃべり」がじょうずになるのは5歳くらいから
ところが食べながらしゃべる、しゃべりながら食べるということは、じつは4歳児でもまだまだ難しいのです。それは、4歳児では縄跳びがまだうまくできないのと同じです。手を回しながら跳ぶ-”~ながら”という行為は4歳児ころから発達しはじめ、5歳になるとじょうずにできるようになります。
おしゃべりの内容も、4歳児ごろまでは、たとえば幼稚園などで家から持ってきたお弁当を食べる場面で。「プチトマトが入っている人~」とか、「ふりかけを持ってきた人~」など、パターンの会話しかできません。まだ言語発達が未熟だからです。それがだんだん。「このプチトマトは家でとれたんだよー」とか、「うちはスーパーで買ってきたやつだよー」、「ふりかけはお兄ちゃんのとは違うのー」などの会話はができるようになります。もちろん個人差はありますけれど。
なかには、しゃべってばかりで食べない子もいます。でも、しゃべってばかりというのは、あまり心配いりません。むしろ食べものしか見ていない、ただひたすら食べていることのほうが、ちょっと心配です。じつはそれは食事を味わってもいなかったり、まわりの人とコミュニケーションをとらず、「おいしいね」と共感しながら食べていないのかもしれず、「早食い」「丸飲み込み」になりかねないからです。
コミュニケーションの発達が言語発達を支えますが、コミュニケーションの豊かな食事がおいしいのです。反対に、どんなに高級な、おいしいはずの料理を食べても、会話もなく緊張する人と食べると、おいしさを味わうことなどできません。親しくお話ができて、楽しい場でいられれば、高級な料理がでなくてもおいしいし、あまりおいしいと思えないものを食べたときでも、「あれ、まずかったね~」と、楽しい思い出になるかもしれません。コミュニケーションが豊かになる人たちとの食事は、子どもにとっても大人にとっても、楽しく味わうことができる食事になるのでしょう。
テーブルを囲む意味
0・1・2歳ぐらいは、まだまだ介助が必要な時期ですから、介助する人との信頼関係が重要になります。しかし、信頼関係は食事時間に急にできるわけではありません。保育のなか、家庭で遊ぶなかで、子どもはその保育士や親などといかにコミュニケーションがとりやすいか、自分の気持ちや要求がわかってくれているかを見ています。そこで信頼関係が培われ、それが食事の場面で生きてきます。
やがて子どもは、自分で食べられるようになり、家族や友だちやなかまと一緒に食べるという社会的場面で食べるようになっていきます。
テーブルを囲むということは、食事をすることのみを意味するのではありません。むしろ人とコミュニケーションをすることがメインであることもあります。ですから、誰と食べるのかということがとても大事です。テーブルを囲む人との関係を楽しみながら食べるのですから、まわりとのペースを大事にすることや楽しいおしゃべりが、「おいしい」につながり、そこから豊かなコミュニケーションが生まれます。
食べることもしゃべることも口でしていますが、共通点はそれだけではありません。赤ちゃんの食事を介助している場面を思い浮かべてください。そこには、食べさせてもらう・食べさせてあげるというやりとりがあります。おしゃべりも、聞き手・話し手の役割が交代しますから、やりとりがあります。この、”やりとり”も、食べることとしゃべることの共通点になります。
「ともに食べる」は人だけがする行為
このような「ともに食べる」という姿は、人にだけ見られるものです。動物のお母さんは、子どもにエサを与えます。ライオンのきょうだいもつかまえたものを一緒に食べています。でも「おいしいね」と、ともに食べることを楽しんでいるわけではありません。他者に与える余裕もありません。
でも人間の赤ちゃんは、自分が食べているものをお母さんの口に入れてくることがあります。経験をされていない方もいると思いますが、自分のつばでビチョビチョのパンなのに、口にぐうっと入れてくる、そんなことがありますよね。嫌だから口に入れてくるのではなく、それは「一緒に食べよう」という気持ちの表れなのです。