予防

オーラルフレイルって何?

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「オーラルフレイル」の前に「フレイル」って何なのでしょうか?

フレイルを直訳すると“虚弱”という意味です。

ここでお話しするフレイルは「高齢者における健康状態と要介護状態の間に位置する虚弱な状態」を指します。

この「フレイル」とい状態から健康な状態へ少しでも戻すことができるかどうかが、とても重要です。

将来、要介護状態になることをできる限り先延ばしにし、年齢を重ねても、自立した生活ができ、

健康を維持して、人生を謳歌できるかどうかが決まるのです。

 

社会性とフレイルの関係

フレイルは、筋力の低下など身体的なことだけが関係するわけではありません。

サルコペニア(加齢による筋肉量の減少)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)のほかに、心理的・認知的な虚弱であるうつや認知機能の低下、そして、社会的な虚弱である閉じこもり、困窮、孤食(ひとりで食事をすること)なども含まれています。

身体的・心理的・認知的フレイルに深く関わるのが社会的フレイルです。定年により仕事から離れたり、配偶者との死別をきっかけに、社会とのつながりが希薄になる人が少なくありません。また、加齢によるケガや病気で外出の頻度が減ったり、それまで参加していた趣味の会を退会してしまったりすることなども要因になります。さらに、家族と離れて暮らしている、親しい友人が引っ越してしまう、亡くなってしまうなど社会性を失う要因は多岐にわたります。

人と接する機会が少なくなることは認知機能の低下に影響しますし、家の中に閉じこもるようになれば身体を動かす機会が減り、身体機能も衰えてしまいます。また、孤食によって食べることへの関心が薄すれ、栄養状態に問題を及ぼすこともありえます。こうした社会的フレイルが、身体的フレイル、心理的・認知的フレイルを次々と引き起こし、要介護、寝たきり状態へとドミノ倒しのように進んでしまうのです。

 

それでは本題の「オーラルフレイル」って?

オーラルフレイルとは、お口の中の虚弱という意味で、フレイルとも大きな関係性があり、要介護状態、寝たきり状態を早めてしまう重大な原因であるとして、近年とても注目されている考え方です。

お口には「食べる」「飲み込む」「息をする」「コミュニケーション」「唾液の分泌」などという様々な重要な機能がありますが、それらの役割をうまく使いこなせなくなったと感じたら、オーラルフレイルの前兆です。

オーラルフレイルの自己チェック

  • 食事の時にむせたり、食べこぼす
  • 食欲がなく、少ししか食べられない
  • やわらかいものばかり食べている
  • 以前より滑舌が悪くなった、舌がなめらかに回らなくなった
  • 口の中が渇きやすく、口臭が気になる
  • 自分の歯が少なくなってきた
  • あごの力が弱くなってきた
  • 口の周りの容姿が気になる

上記の自己チェックの自覚症状がある、あるいは家族や友人からの指摘があった人は要注意です。

こうしたお口に関わるささいな衰えが、オーラルフレイル、そしてその先のフレイル、要介護状態、寝たきり・・・・・・と負のスパイラルに繋がってしまうかもしれません。オーラルフレイルが進むと、口腔機能低下症という段階になります。そして自分で食べ物をかみ砕いて飲み込むことが難しくなる摂食障害という状態になってしまいます。

 

要介護や総死亡リスクが2倍以上に!

お口の機能を衰えさせる主原因である、自分の歯の数と認知症の関係を調べた研究があります。認知症の認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に4年間の観察研究を行い、性別・年齢・生活習慣に関わらず、自分の歯がほとんど残っておらず、義歯を使っていない群と、自分の歯が20本以上残っている群を比較したところ、全群の人たちのほうが、認知症を発症するリスクが1.9倍も高いことがわかりました。

また、オーラルフレイルなどの要因から社会的フレイルを発症した人は、そうでない人と比べて認知機能が低下する可能性が1.8倍になるという報告もあります。なお、自分の歯がなくても義歯を入れて補っている人は、認知症リスクが4割程度抑えられるというデータも出ています。また、オーラルフレイルが認められた高齢者は、4年後の身体的フレイル発症リスクが2.2倍になり、さらに要介護リスクが2.4倍、総死亡リスクは2.2倍に跳ね上がります。

 

柏スタディの成果

東京大学高齢社会総合研究機構が2012年から実施してきた大規模長期縦断追跡調査「柏スタディ」では、高齢者が健康寿命を維持するために予防すべきフレイル、サルコぺニア、そしてオーラルフレイルという新しい知見を提示してきました。

調査に参加して自分の状態を知り、生活改善を試みた人々はフレイル、オーラルフレイルともに改善された結果が示されています。

柏スタディの研究開始から半年後の調査で改善項目が増えた人からは、「フレイルと社会生活の関わりが密接なことが理解できた。今よりも少しでも社会参加を心がけたい」「人とかかわることがやはり元気の素と思った」「歯科は月1回受診する。ひとり暮らしなので食べることは、命をみがくこと、感謝する心、幸せを常に保つこと」など、前向きな意見が目白押しです。

また、参加者の7割以上がフレイルに気をつけるようになり、6割以上がしっかり噛んで食べ、運動をするようになっています。すでにフレイルやオーラルフレイルの状態になっている人でも、本人が自覚して努力することにより、健康な状態へ戻ることができるということをしっかり認識してほしいと思います。

 

メタボからフレイルへ、ギアチェンジ!

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)、略して“メタボ”は、もはや知らない人がいないほど周知されました。メタボは生活習慣病の指標となります。

ハタラキ盛りの30~40代を中心に、現在では多くの人がメタボを気にしています。見た目がよくないのはもちろん、メタボを要因のひとつとする病気のリスクも広く知られています。確かに、わが国では、予備軍も含めると、糖尿病患者が約2千万人いると推計されていますし高血圧症や脂質異常症の延長線上には、心臓病や脳血管疾患の危険性が潜んでいます。そこで、国を挙げてメタボ予防が盛んに宣伝され、自治体や企業でメタボ検診が行われるようになりました。

自治体の特定健康診査の場合は40~74歳が対象です。そのため定年世代である60~65歳を越えてもメタボを気にして、ダイエットのために糖質を制限したり、食べる量を減らしたり肉を減らしたりして野菜を増やしている人もいるでしょう。

しかし、個人差はあるものの、高齢者はタンパク質から筋肉をつくる働きが弱く、タンパク質不足で筋肉が減少してサルコペニアを招き、フレイルへと進んでしまう可能性が高いのです。これを知らないと、加齢にしたがって忍び寄るフレイルを自ら手招いてしまうことになりかねません。実は、加齢に伴うフレイル対策をするには、働き盛りの40代の頃からきちんとした生活習慣と栄養摂取方法を実践しておくことが重要です。

もちろんメタボ対策は大切ですが、その一方で、将来に向けてフレイル対策へとギアチェンジするべきであることもよく認識し、自分の身体や健康に向き合っていただきたいと思います。