顎関節運動と咀嚼筋の働き
骨と筋肉が運動を作り出す
骨にはいろいろな機能がありますが、なかでも大切なのは筋肉とともに運動器を構成し、身体の動きを作り出しています。
頬骨弓の役割について
意外と知られていないのが頬骨弓の役割です。
次のような役割を担っています。
- 咬筋の起始部となっている
- 側頭筋が走行するスペースを作る
用は、咬筋と側頭筋が平面的に重なるのを、立体的に上手く処理しているのです。
頬骨弓は鎖骨とともにスポーツや喧嘩などでよく折れる骨の一つにあげられます。
顎骨の大きな特色は歯をもっていること
顎骨をスポーツ生理学的視点から見れば、人体で構成する200以上の骨の中で唯一骨体に多数連続して並んで上下歯列を構成し、それがうまく嵌合することにより咬合を作り上げています。
このことより、筋肉の活動(収縮)が停止線(咬合平面)を持つという点で、他の骨格筋関節と大きく異なっています。
また、咀嚼筋はスポーツ動作運動には直接関与せずフリーであるため、他筋との同調的筋収縮を表現しやすく、より具体的にいえば歯を噛みしめることにより顎を固めれば、身体も固まりやすくなると考えられます。
顎関節運動の基本は回転運動
メカニズム
顎関節運動の基本は回転(蝶番運動)と滑走(すべり運動)です。これは顎の開閉運動を通じて同時に同じ量だけで起こるものではなく、開口が小さい時には主として下顎頭の回転が生じ、開口が大きくなるとそれに比例して下顎頭の前方への滑走量も大きくなるいわれています。
なぜ、下顎はこのような複雑な動きをするのでしょうか。
最初安静位から開口運動を始める場合、通常咀嚼筋は緩んだ状態にあることから、下顎の自重を運動エネルギーとして顎関節を中心とした回転運動が起こります。本運動により、閉口筋は徐々に伸ばされていきますが、咬筋や内側翼突筋など筋長の短い筋は、すぐに伸びの限界に達します。
そのため、ここからの科学の回転中心は咬筋や内側翼突筋の付着部である下顎角のあたりへと映り、これ以上の開口では骨体の回転に伴う下顎頭の前方への滑走(すべり)がより多く発生します。
このような下顎頭の回転と滑走を組み合わせた関節運動は、筋の伸び異常に開口量をかせぐことができると言う点で、非常によくできたメカニズムといえます。
開閉口運動における各筋肉の動き
開口運動時には、外側翼突筋が先行活動し、顎二腹筋の活動が大きくなるのは開口運動がかなり進行してからです。
また、静かに開口する時は、顎二腹筋はほとんど活動せず、強く開口する時には活動量が大きくなります。このことにより顎二腹筋は開口運動を完成させるものとして働くことが考えられます。
閉口時には常に側頭筋の方が咬筋より先行して活動し、上下の歯が合わさり噛みしめが始まるとそこから咬筋と内側翼突筋の活動が盛んになってきます。これらのことより、側頭筋は主として下顎の位置決めに、咬合、内側翼突筋は主として咀嚼に関係するといえます。
顎の開閉運動では上顎も動く
顎の開閉運動で動くのは、下顎だけだと考えておられる方が多いのではないでしょうか。ここでひとつ顎関節の主運動と同じく回転(一軸開閉)運動をおこなう洗濯バサミを想像して下さい。その開閉では両側のハサミの口が動いているはずです。実は、顎の開閉運動では上顎、下顎を両方とも動かすことは可能なのですが、通常は視線がぶれないよう上顎(頭部)の動きを抑制するため、頸部や肩部の筋肉が動きます。なかでも胸鎖乳突筋は、顎運動を取り扱う上で非常に重要な筋肉です。本筋は起始が胸骨と鎖骨、停止が乳様突起にある二頭筋であり、両頭筋の働くバランスによっては頭位の屈曲にも伸展にも働くという複雑な動きをします。
その働きの根幹は、咬合機能時に頭部をより適切な位置に保定するというものです。
このように、首や肩の筋肉は顎の開閉運動に関与するため、顎の適用や頻繁な噛みしめにより、首や肩の"凝り"が生じることもありますので、注意が必要です。
しかしながら、これら協働筋の働きをもってしても、上顎の動きを完全に止められるわけではなく、タッピング運動などにおいては、上顎は下顎に対して上下的に相反する方向に動き、その運動量は下顎のおよそ1/10といわれています。