歯を失う原因の約半分は歯周病
むし歯とともに、歯をなくす原因の約半分をしめているのが歯周病です。歯を支えている歯ぐき(歯肉)や歯根膜、歯槽骨が悪くなる病気で、次第に歯が浮き上がり、そおうちグラグラしだし、やがて抜けてしまいます。
昔は、これを歯槽膿漏と呼んでいました。こちらの方がなんだか迫力がありますね。それにくらべ、歯周病という病名は何だか危機感が足りません。しかし歯周病は、恐ろしい病気です。
じつは歯槽膿漏というのは、歯周病が重症化して歯根膜や歯槽骨までおかされ歯茎から膿が出てグラグラになった末期の状態を示すものなのです。初期には、歯肉の軽い炎症に始まり、10年単位の長い年月をかけて徐々に痛みなく進行していき、末期には歯が抜けてしまいます。
こんな症状はありませんか
歯周病にはさまざまな症状がありますが、下記のような症状が見られたら歯周病の疑いがあります。
歯ぐきが赤く腫れる
歯ぐきから出血する
膿が出て、口の中がネバった感じになる
口臭がある
歯ぐきがやせて歯根が露出する
歯が細く見える
歯と歯のあいだに隙間ができる
歯ぐきが赤黒くなる
歯に動揺がある
歯が抜ける
歯周病が怖いのは、痛みなど自覚症状がほとんどないことです。
初期はもちろん、歯がグラついたり、抜けるような末期になっても、痛みのないケースが珍しくありません。症状がほぼないまま進行するので、知らないうちに酷い状態になるのが歯周病です。気付いたたきには数本、場合によるとほとんどの歯を抜かねばならない、そんな事態さえ引き起こします。
本人が自覚しているかどうかは別として、成人の90%は歯周病にかかっているといわれます。世界中に35億人程度の患者がいると言われ、世界一多くの人が掛かっている病気としてギネスにも載っています。困ったことは、大部分の人はそれに気づいていないことです。
「私は大丈夫だ」という慢心は禁物です。「大丈夫だ」といえる人は、ひとりもいないといっても言い過ぎではありません。
定期的にチェックを受け、早期発見を心がけてください。中程度までの軽い段階では、比較的治りやすい病気です。早期に安定した歯茎を取り戻し、安定を守り続けることが大切です。
歯の抜ける原因の半分は歯周病であるといいましたが、それを逆にいうと、歯周病を防ぐことで半分の歯は失わずにすむということになります。
それではどうして歯周病が起こるのでしょうか?
むし歯と同じように歯周病の原因も細菌です。プラークの中にはむし歯菌とは別の種類の歯周病菌がたくさんいて、それが作る物質によって歯肉に炎症が起こります。
歯周病でも、最大の予防策はブラッシングです、とりわけ歯と歯ぐきの境目はプラークがたまりやすく、いつも歯周病菌に狙われています。歯磨きをしないと、わずか2日後にはもう炎症がはじまります。
初期の段階ならブラッシングを続け、プラークをきれいに取り除くことで治るのです。しかし放置しておくと歯と歯ぐきがはがれて、その間にすきまが生じます。そのすき間がだんだん深くなってできるのが、歯周ポケットといわれるミゾです。
さあ、恐ろしい歯周病のはじまりです。
歯周ポケットには歯石がこびりつき、炎症をさらに悪化させます。細菌にとってポケットは絶好のすみかになり、最近を撃退してくれる白血球の働きを低下させたり、骨まで溶かしてしまう有害物質を生産する。凶悪な細菌集団が住みつきます。
そうなると、歯周病菌の思う壺、あとはもう破壊が進む一方です。ポケットはますます深くなり、歯根膜が壊され、最後には歯を支えていた歯槽骨が溶けだします。
歯を支えている歯槽骨がやせてきますから、歯が浮き上がり、グラつきはじめるのは当然でしょう。舌や指でふれると歯が動く、そいう状態を発見した時の患者さんの驚きは、言葉でいいあらわせないほど大きいようです。
そうなった歯は抜けやすく、ほんの小さな衝撃でポロッ。口に含んだ水をブクブクしているうちに抜けてしまった、そんな例もあるぐらいです。そこまでいく前に、歯周病の進行をどこかで止めなければなりません。
意外なところにある歯周病の原因
歯周病を引き起こす第一の原因は歯周病菌ですが、そのほかに歯周病を助長するいくつかの要因があります。一般にあまり知られていないので、「え。こんなものが、、、」とびっくりされるかもしれませんが、思い当たるものがある人は注意してください。
①合わなくなった入れ歯やむし歯のかぶせ、詰め物
入れ歯はもちろん、むし歯のかぶせや詰め物も、合わないものは口の中のストレスを高め、歯周病の原因になります。年に一度か二度、成人病の定期検診や人間ドックを受診している人がほとんどと思いますが、歯の方も定期的なチェックが必要です。かかりつけの歯科医を見つけいつでも健診や健康相談を受けられるようにしましょう。
②歯ぎしり、噛み合わせの悪さ、悪い歯並び
歯に大きな負担をかける歯ぎしりや、噛み合わせの悪さから歯周病を起こしたり、悪化させることがあります。また歯並びが悪いと、それだけブラッシングが難しくなり、その部分にプラークがたまります。
歯ぎしりの対処法としては、噛む力を吸収するナイトガードがあります。噛み合わせとか歯並びの問題は、咬合調整や歯列矯正で対処するのがベストですが、「矯正までするのはどうも」という方は、自分の"個性的"な歯にあったブラッシングの方法を、歯科医院で指導してもらいましょう。
③間違ったブラッシング
歯ブラシの使い方が間違っていると、歯の周りの組織を傷めてしまいます。力任せにゴシゴシ磨かず、ブラシを当てて小刻みに動かすのが基本です。
④糖尿病
歯が悪くなるのは、糖尿病の患者さんに多い合併症のひとつです。この病気になると、むし歯や歯周病が急速に悪化する人がいます。放っておいたら10年後には、ほとんどの歯が抜けてしまったという悲劇もありますから、糖尿病のある人は日ごろから歯を大切にする注意が必要です。歯周病のひどい患者さんが来院すると、糖尿病の有無を尋ね、場合によっては糖尿病の専門医を紹介することもあります。歯科受診をきっかけに、糖尿病であることがわかるケースも少なくないのです。また、逆に糖尿病をもっている人は、歯周病が悪化すると言われています。私は糖尿病ではないので大丈夫と安心するのは、ちょっと待ってください。ほかにも歯周病と関係する病気がいくつかあります。慢性肝炎、自律神経失調症、動脈硬化、ホルモン不調和やビタミン欠乏などの代謝異常などなど歯周病と多くの全身疾患が関わっていることが近年明確に解って来ました。妊娠による代謝の乱れで、急速に歯周病が悪化することもありますし、早産の原因の一つでもあるのです。
⑤ストレス
仕事で徹夜すると翌日はむし歯がうずくとか、歯ぐきから出血するといった経験はないでしょうか。患者さんのなかには、「仕事が忙しいときに限って歯が悪くなる」とこぼす方がいますが、それも決して偶然ではないのです。ガンや高血圧などの成人病とストレスオン関係がよく指摘されますが、歯周病はいわば、歯の成人病です。ストレスの強い人ほど、歯を悪くする傾向が見られます。診療室でも、そのことをしばしば実感します。長いお付き合いの患者さんが、急に歯の調子を悪くして来院したときなど、話をしてみると、生活面で大きなストレスに直面していることが少なくありません。お子さんの受験や家族の病気、あるいは仕事の悩み。家庭内のトラブルまで、歯に影響することがあるといったら、びっくりされるかもしれませんね。歯はストレスにきわめて敏感です。どうして心の状態が歯に現れるかというと、どうも免疫力と関係しているらしいのです。ストレスが続くと免疫力が低下し、歯周病菌と戦うパワーがおちるのではないかといわれています。大きな悩みがあるとか忙しさに追われているときは、歯の手入れも後回しになり、プラークをためやすいのも一因でしょう。ほんとうはそんなときほど、念入りなブラッシングが必要なのです。
それでは歯周病にはどんな治療が必要なのでしょうか?
①歯磨き
先にお話ししたように、ブラッシングをたった2日間休むだけでも、歯周病のはじまりである歯肉炎が起きてきます。したがって、歯周病菌を大量に含むプラークを取り除く毎日の歯磨きは、歯周病の予防法であるとともに第一の治療法です。それ以降は、歯科医院での専門的な治療になります。
②歯石の除去
歯石は、プラークが石灰化したものです細歯石の中に細菌はいませんが、ざらざらした表面にプラークがさらに付きやすくなり、歯周病を悪化させることが解っています。歯周ポケットが浅いうちなら、それを取り除くだけで歯ぐきはもとの状態に近づきます。そうとう丹念に歯磨きしていても歯石ができます。歯周病の自覚症状がない人も、定期的に歯科医院で歯石をとって表面をツルツルに磨いてもらうといいでしょう。
③歯周ポケットをなくす処置
困るのは深いポケットができてしまったときです。そうなると歯石を取り除いても、健康な状態に戻らないので、ポケットを取り除く外科的な処置が必要になってきます。
●グラグラする歯を固定する処置
病気が進んでグラグラしてきた歯は、放っておくと抜けてしまいます。そこで歯周病の治療と並行して行うのが、グラついた歯を動かなくする固定処置です。暫間固定と永久固定があり、暫間固定のほうは、歯周病の状態がよくなってきたところで外すことができます。はなはだしく歯槽骨が吸収され、もう歯を支えられないと判断した場合は、クラウンなどを用いる永久固定で対処します。ただこうした処置をしても、歯周病の脅威がすっかりなくなるわけではないことを忘れないでください。
プラークがあれば、やっぱり歯周病が再発・進行します。ですから念入りに歯磨きすることすなわちプラークコントロールこそが、この病気の基本的な治療なのです。治療の中心はドクターや衛生士ではありません。毎日、家庭でプラークコントロールを行う患者さん自身が、歯周病の治療なのです。