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あなどれない嗅覚異常

お知らせ予防

新型コロナウイルス感染で、若者の初期症状として嗅覚脱失が挙げられました。舌に存在するアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を介してコロナウイルスが細胞内に侵入することから、味覚異常なども起こります。ではなぜ嗅覚脱失は若者の症状なのでしょうか。

 

嗅覚脱失は珍しい症状ではない

まず、嗅覚脱失の様々な原因を挙げてみましょう。パーキンソン病や認知症などの脳神経障害、うつ病などの精神神経疾患、副鼻腔炎や鼻腔内腫瘍(鼻茸も)、鼻孔閉鎖などの鼻疾患、そしてインフルエンザ感染症などに代表される上気道感染症は、嗅覚低下・脱失の3割弱に関与していると言われますから、珍しい症状ではありません。皆さんも風邪のときに嗅覚低下や味覚異常の経験があるでしょう。

 

年齢を重ねるとともに衰える嗅覚

なぜ若者の初期症状と言われたのかというと、それは残念ながら嗅覚が20代をピークに衰えていってしまうからです。視覚や聴覚は比べる対象があり、老眼や難聴など年齢とともに自覚できますが、嗅覚は比較が難しいのです。若者でなくても新型コロナウイルス感染で嗅覚脱失が起こっているはずなのですが、残念ながらそれを自覚することができません。「匂いがわからないだけでしょう」とあなどるなかれ。嗅覚低下の先に待っているのは、介護状態です。

私が「病気の匂い」によって「口呼吸」の存在に気がついたのがまさにピークの20代。それから衰える一方で、外来で「私の病気の匂いがしますか」と尋ねられても「わからないんです」と苦笑いするのはしょうがないことなのですね。

 

嗅覚低下から介護状態へ!

  • 食欲低下
  • 食べる量が減る
  • 筋肉量が落ちる
  • 社会参加が好くなくなる
  • 元気がなくなる

→フレイル→介護状態

 

 

コロナウイルスとお口の健康

20世紀初期の有名な歯科医師W.A.Price博士をご存知でしょうか?

博士は約4,000羽のウサギを用いて、口腔内慢性感染症が二次的な疾患を他の隔離臓器に引き起こすことを証明しました。「病巣感染症説」として知られています。博士が記した膨大な書籍の中に1981年に起こったスペイン風邪の大流行について記してあり、それによると口腔感染症のある人は、ない人と比べて感染率、重篤率が高かったそうです。

 

不衛生な口腔内を好む新型コロナウイルス

新型コロナウイルスは正式にはSARS-CoV-2で、COVID-19はそれにより引き起こる肺炎などの病気のことです。名前のとおり2002年に発症したSARS(重症急性呼吸器症候群)が由来です。SARSでは世界での死者が700人程度にとどまりましたが、SARS-CoV-2では、世界での感染者は2,800万人を超え、死者数に伊田っては90万人を越えています。日本では毎年のインフルエンザ感染症で1万人ほどが亡くなることを考えても、驚異的な感染症です。日本国内では、いまだ1,500人程度の死者にとどまっていますが、軽症ですんでいる理由はわかっていません。

新型コロナウイルスは、粒子表面のSタンパク質と人体のアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体が結合することにより細胞内に侵入します。このACE2受容体は、口腔粘膜、特に舌粘膜に多く発現します。口腔内環境を悪化させる喫煙によってもACE2受容体は増えることも報告されています。さらに感染により、味蕾細胞の機能が障害され味覚異常が生じている可能性があります。感染者の唾液には鼻咽頭粘液と同程度のウイルス量が検出されます。マスクで唾液の飛沫を防ぐことは感染予防において必須ですし、清潔な口腔内を保つことが重要であることはいうまでもありませんね。

 

誤嚥性肺炎予防の観点からも新型コロナ感染を予防しよう

COVID-19に限らず入院期間が長くなると専門的口腔ケアを受ける機会がへってしまうため、口腔内細菌を誤嚥する可能性が多くなります。それが誤嚥性肺炎を引き起こしたり、炎症性サイトカインの産生が起こり、肺炎が重症化したりする可能性もあります。これは残念ながら医科医療者がオーラルケアの重要性をまだしっかりと認識できず、なおざりにされてしまっている現状もあります。救急救命の際のECMO(人工心肺)など高度先端医療も重要ですが、そこに至らないようにする方法も、しっかりと啓発していきたいものです。