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オーラルフレイル対策が、要介護を遠のけます。

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これまで老化といえば、足腰の衰えや血管の若さに重きが置かれてきました。「オーラルフレイル」という言葉、最近よく耳にされませんか?老化による衰えを「フレイル」と言いますが、口の衰えを示す言葉「オーラルフレイル」への注目が高まっています。どうして注目されているのでしょうか。

なぜなら、口の問題は口だけでは終わらないことが分かってきたからです。たとえば、硬いものが食べにくい、むせやすいなど、口の機能が低下した状態の人は、口腔機能が良好な人に比べて死亡率が2.1倍、要介護認定になる確率は2.4倍になるという恐ろしい調査結果があります。一方で、オーラルフレイルは、放置せずにきちんと対策すれば改善することも分かっています。これで健康寿命の延長が期待できると言われています。

それでは、なぜオーラルフレイルが原因で、心身の機能が落ちるのでしょうか。

まず身体全体の衰えを示す「フレイル」について説明しましょう。フレイルは加齢とともに心身の活力が低下した状態のこと。英語の「frailty」(虚弱)が語源であり、日本老年医学界が、2014年に提唱しました。多くの人が健康な状態から、フレイルを経て要介護状態になると考えられます。特筆すべきは、フレイル状態に早めに気付いて適切な対処をすれば、また健康な状態に戻れる可能性があることです。しかし、フレイルの小さなサインを見逃していると、加速度的に介護が必要な状態に進行してしまいます。一度要介護レベルになると、残念ながらなかなか改善は期待できません。

高齢者約2000人強を対象にした大規模調査が、2012年から千葉県柏市で実施され、健康状態や身体機能、社会参加状況、認知機能など260項目のデータを収集しています。この調査で、フレイルの詳細が明らかになったそうです。

それは、フレイルの予防には「食事」「運動」「社会参加」の3つがとても大切だということです。「よく噛んで、しっかり食べること」「ウォーキングなどによる適度な運動」「趣味やボランティア、就労などの社会参加」をバランスよく実施することが、健康的な生活を送り続けるために重要だとわかったのです。

つまり、よく言われる足腰の筋肉と同様に、口腔機能も老化防止には極めて重要なのです。その説明のために提唱した概念が「オーラルフレイル」。実際、オーラルフレイルの人は、身体的フレイルになるリスクが2.4倍高いことも柏市での調査の結果が示しています。

筋肉は40歳を過ぎると毎年0.5~1%ずつ減少すると言われています。さて、オーラルフレイルは何歳くらいから心配するべきでしょうか。柏市での調査では平均73歳の高齢者で、オーラルフレイルの比率が2割弱だったとのことです。早い人では50歳代から、60歳代では4人に1人が、前段階の「プレ・オーラルフレイル」と言っても良いのではないかと思います。しかし、それより若い世代だから全く安心とも言い切れません。30代後半くらいから、歯周病の人は増えてきています。若いうちからオーラルフレイルにならないように注意し、栄養のある食事を食べ続ける総合力としての食力を維持することが、将来のフレイル予防を下支えすると思います。それでは、むし歯や歯周病さえ治療できていれば、オーラルフレイルにはならないのでしょうか。食力が衰える要因は主に5つあると言われています。当然、「機能する歯がどれだけ残っているか」はとても重要です。1989年から始まった「8020運動」は素晴らしい成果を挙げており、我々歯科医師の挙げた成果と自負しています。最新の全国データでは、75歳~84歳の51%が20本以上の歯を残せています。しかし、歯が残っていても口の周りの筋肉が衰えてくると、やはり食力は落ちます。これが2つ目の要素である口周りの筋肉の弱り(サルコペニア)です。これが起きると、食べ物を噛む咀嚼機能や、飲みこむための嚥下機能が落ちてしまいます。そういった状態を口腔機能低下症と診断して治療やケアの対象にしています。

そして3つ目が、多剤併用の副作用です。高齢者は持病の治療のために複数の医薬品を服用していることが多いのですが、これが、唾液の分泌量減少や食欲減退を引き起こしていることがあります。複数の診療科にかかっていると重複して同じような薬を出されていることも多く、総合的に診断を受けることが出来ない状況では多剤を服用していることも多いでしょう。

4つ目として食事に対する誤認識も問題で、いわゆる「メタボの光と影」になるのでしょう。メタボリック症候群の啓発が進んだことによって、多くの高齢者が「もっと痩せなければ」と勘違いしてしまいます。現役世代が太りすぎの場合は、心疾患や脳血管疾患などのリスクが確かに上がるので、体脂肪率を落としたほうがいいでしょう。しかし高齢者はうまく体重を落とさないと、むしろ大事な筋肉を失い、身体的フレイルも進行させてしまいかねません。筋肉を落とさず、体脂肪率を低下させるのは、高齢者にとっては簡単ではありません。

そして、意外に重要なのが社会性。どんな環境で食事をするかが、食力に大きく影響していることが分かっています。たとえば、1人ボッチでは弁当を食べきれない高齢者でも、他の人とおしゃべりしながらなら、残さず食べきれることが多いのは、人との食事や会話が食力の下支えになっているのです。

新型コロナ禍の影響で、人と一緒に食事をする機会が減り、隣席の人と雑談をすることも少なくなりました。これらもオーラルフレイルに影響するのでしょうか。口周りの筋肉は、使わなければ動きが悪くなります。口には、食べる、飲み込む、話す、唾液を分泌するなどの多様な機能があります。それらの機能に大切な役割を果たしているのが筋肉の塊である舌。たとえば、硬い肉を食べるとき、同じ歯でずっと噛んでいるわけではありません。前歯で噛み切ったら、舌で左右の奥歯を往復させながら数回ずつ噛んで、最後に舌全体で喉の方へ食べ物を送り込みます。しっかり食べるためには、咀嚼の筋肉だけではなく、唇、舌、喉など、口周りの筋肉がしっかり強調して働ける状態であることが大切です。

オーラルフレイルかどうかを簡単に調べる方法があればいいと思われます。ちょうどよいセルフチェックリストがありますのでご紹介します。8項目の質問に答えるだけでオーラルフレイルのリスクを調べられます。まずはこれを試してみてください。

また、唇と舌の動きは、「パ・タ・カ」テストで簡易的にチェックできます。「パパパ・・・・」「タタタ・・・・」「カカカ・・・・」とできるだけ速く言ってみてください。これらが5秒間に30回以上言えれば問題ありません。この3つの発音は、食べるために必要な筋肉と関連しています。「パ」は、唇の周りの筋肉と連動しており、ここが衰えている人は食べこぼしの心配があります。「タ」は、舌の先端部分が上前歯の裏に付く発音で、口の中で食べ物を移動させる動きと関連しています。そして、「カ」は舌の奥の部分の動きで、飲み込む力や嚥下機能障害に影響します。もっと詳しく口腔機能について調べてみたい場合には、「口腔機能低下症」の精密な検査をしてみると良いでしょう。噛む力や舌の力、咀嚼機能などの検査をい行います。18年4月から「口腔機能低下症」が保険収載され、65歳以上で保険診療の対象になりました。また、今年22年4月からは50歳以上に対象が拡大されました。専用の機械が必要ですが、いえさき歯科でも今年から器材を整えて対応することになりました。最近は歯科医師会でもオーラルフレイルについて学ぶようになってきたので、今後は力を入れていきたい分野です。

オーラルフレイルを防ぐために、口周りを鍛える方法を伝えしましょう。いったんオーラルフレイルになった人でも、3ケ月ほど訓練をすると、かなりの人が改善することがわかっています。たとえば、「パ・パ・パ・・・」とはっきり発音する練習をする「パタカラ体操」など、様々な口の運動が提唱されており、どれも一定の効果が見込めます。

ただ、腕や脚の筋肉と一緒で、”筋トレ”だけで鍛えようとすると、長続きしない恐れがあります。一方で、仕事で荷物配送をする人はしっかりとした二の腕をしていますし、趣味でサイクリングをする人は脚の筋肉が発達しています。同様に、口周りの筋肉も、普段の生活で取り入れられることや、好きで続けられることをいくつか併用するのがよいと思います。

たとえば、新聞記事などを1本音読する、風呂やカラオケで1曲歌うのもいいでしょう。毎日の歯磨きに頬を動かす「ブクブクうがい」を数十秒加えるのも効果が期待できます。他に、おかずに硬くて大きめの食材を入れる手もあります。自分で習慣化しやすいことをいくつか選んで始めてください。筋肉は裏切りません。怠けていれば衰えますが、努力を継続していれば、必ず結果が出てきます。

オーラルフレイル対策に歯科医院に通ってください。口腔リテラシーを高く維持するために、口に何のトラブルも感じていないとしても、3~6カ月に1回程度の歯科受診をお勧めします。いえさき歯科でも800人くらいの方が検診やクリーニングで3か月に一回程度受診されています。だから、歯科以外の医療や介護関係者にオーラルフレイルについて知ってもらい、定期歯科受診を促すような連携を加速したいと考えています。

身体の衰えを止めたければまず口からであることをご理解いただけましたか?

この記事のお問合せ先:阿倍野区西田辺のいえさき歯科

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